「僕が、君の手を」(全年齢)男性一人用 10分程度

……………………………………………………
題名『僕が、君の手を』
全年齢 男性一人用 10分程度

バイト先で知り合った先輩男子と後輩女子。付き合っている。
男子は穏やかで優しい人だが好きな彼女には一生懸命で積極的。
一生懸命にならなくてはいけない理由がある。
……………………………………………………

はい、荷物貸して?

大丈夫だって。それ結構重いでしょ。
僕、男だよ?そのぐらい全然平気だって。

はい、だから荷物貸して。そんで、そっちの手も貸して。

ん。手、つなご?

よし、行こっか。

それにしてもあいつがバイト辞めるからってプレゼントなんか用意しなくていいのに。
だって、他に割りのいいバイト見つけたから辞めるんだよ。わざわざプレゼントとか送別会とか…。

まあ、そういう律儀なところはいいと思うけど…。


ん?  僕の手?
あったかい?

そう?  良かった。
だって、温めるっていう理由で堂々と手をつなげるじゃん。

僕の手ってなんか色素薄いし、指長いって言われるから、女っぽいのかなって思ってた。
大きいだけが取り柄だと思ってたけど。

こうやって好きな子の手を温められるなら、この手で良かった。

あぁ、僕、それやるよね。
手繋いだあと、一回軽くギュって握ってから歩くよね。

なんかね、確認したいのかな。
この手の中にちゃんと君の手があるって。
安心したいんだ。

君の手といえばさ。
バイトに初めて入ってきた時、すごく緊張してたの、覚えてる。
偶然軽く手が触れた時、冷たいし、ちょっと震えてた。
けど、頑張って早く覚えようとしてるの、伝わってきた。

でも、一人で頑張ろうとしないで。
バイトもそうだけど、つらいこととかあったら、ちゃんと教えて。

ヒーローじゃないし、ずっと見ててあげられるわけじゃないから。
一番嫌なのは、何もしてやれないことだからさ…。


そういう一人で頑張っちゃうところも、…その、……元彼には気を許してたんだろうね。
僕と声、似てるんだっけ…。

年下だったんでしょ?
でも君のその意地っ張りなところとか、ほぐして、甘えさせてたんだろうなって考えると、すごいなって正直感心してるし、うらやましいよ。

…ほんとは、別れたくなかった?

でも話し合って決めたんだよね?
留学して離れるのは、君とずっと一緒にいるための試練だから自分を試したい、それに離れてるのに自分に縛られて君の世界が狭くなるのは嫌だから、一度別れるっていうことにしたんでしょ?
留学から戻ったとき、まだ君の気持ちが離れてないなら迎えに行くからって。

彼も悩んだんだろうな。

…って僕、なんで彼の肩もってんだろ。


僕はその話を聞いても君のことを諦めきれなくて。
頑張って仲良くなって、二人で一緒に出かけたりして。
周りからは付き合ってるのか?なんて聞かれるようになったね。

僕はこの関係性に名前をつけたくて、君にお願いをした。
“期間限定の彼氏” になりたいって。
彼が留学から戻ってくるまでっていう条件で。

それまで僕が頑張って、君の気持ちが僕の方に向いたら、そのまま本当の彼氏になれるっていう約束で。

さみしいなら僕を利用すればいいよって。
君はずるいって思わなくていい、全部僕のせいにしていいからって。


…なに、見てるの?

あぁ、夕焼けだ。  綺麗なあかね色。
好きだよね、夕焼け見るの。いっつも、じーっと切なそうに見てる。


……ね、ちょっとこっちに来て。
ここだと誰からも見えないから。
荷物は一旦ここに置こ。

ちょっと抱きしめさせて?  チャージしたい…。

(抱きしめる)

(左右どちらかの耳元近くで)
ごめん、今日、僕、弱気になってる。
付き合うようになってから、元彼のことも、期間限定のことも、こんな風に口にしたことなかったのに…。

僕、いい彼氏、できてるかな?
君の思うような彼氏になれてるかな?

朝会ったら、おはようって言って、夜はおやすみって言える。
そんな普通の日常が幸せなんだ。

君と会ってると、嬉しくて、ドキドキして、クラクラして、全部手に入れたくてどうしようもなくなる。

手を繋いで、そのうち同じ温度になって、僕の気持ちと君の気持ちが同じになったかのように錯覚する。

もし…、もしこのままずっと一緒にいられないなら、僕の気持ちを全部伝えきれるか、不安になってくる。
だから君に触れて安心しようとするんだ。

手を繋いで帰るのが好き。

抱きしめたら、すっぽりと腕の中におさまるのが好き。

(オデコにキス)
こうやって君のオデコにキスするのが好き…。


“夕焼け”は…。きっと彼に関係するものだよね?
君はたまに彼とのことは過ぎたことだと言うけど…。

忘れてないよね…?

彼はずるいな…。君の心を掴んだまま離さない。

彼の代わりでもいいと思ってたけど…。
でも…、でもやっぱり君の特別になりたいや。

どうしたらいい?
君の心から、彼のこと、追い出すにはどうすればいいの?
完全に僕のものにするにはどうすればいいの?

どういう風に想えば僕だけのことを想ってくれるの?
どうやったら彼を超えられるの?
教えて……。

ずっとこうやって腕の中に閉じ込めておければいいのに…。
今こうして一緒にいることも奇跡なのに、高望みしすぎなのかな。


…ごめん。もう少しで彼が帰ってくると思ったら、ちょっと焦ってた。

……なんで、泣きそうな顔してるの?

期間限定でいいからって言ったのも僕のわがまま。
君を完全に僕のものにしたいっていうのも僕のわがままだよ。

一時(いっとき)のものでも、僕は君の特別になりたい。
僕といることで少しでも幸せだって思って欲しいんだ。

なんとなく、答えはわかっているけれど…。

あと少し、もう少しの間だけ頑張るから。
あと少ししかないから…。頑張らせて。


よし、ありがと。
チャージできた。

帰ろっか。
はい、手。

ただ少し、ほんの少しだけでも、この繋いだ手から僕の気持ちが伝わればいいな。
彼が帰ってきても、またこの手を取ってくれるように、願うだけだよ。


……手、また少し冷たくなっちゃったね。
また、温めてあげる。
いつでも。何度でも。

いつまでも。