「パールピアス」(全年齢)男性1名×女性1名 声劇用 30分程度

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題名『パールピアス』
全年齢 声劇用 男性1名×女性1名  30分程度

尊琉(たける):兄。言葉数は多くないが優しい。
継実(つぐみ):妹。明るい。兄に恋心を抱いている。
両親の再婚による義理の兄妹。
再婚した両親は事故で2人とも他界。兄が親代わりとなる。
両親のお墓参りに来ている。

【】は場面設定です。
2ヶ所、台詞ではなくナレーションのように読んでいただきたい箇所があります。
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【二人が初めて出会った時(再婚のため家族の顔合わせにて)】

継実:初めまして。継実です。

尊琉:…尊琉です。

尊琉ナレーション:「思えば俺の人生は、この時が転換期だったんだと思う。
こんなに大切な人になるなんて思ってなかった。」


【お墓参りにて】

継実:お兄ちゃん、お水持って来てくれた?
 
ありがと。

このぐらい綺麗にしたら、お父さんもお母さんも喜んでくれるかな?
あっ、でもお花もあげないと。

ちょっとお兄ちゃん!
ちゃんとお墓磨いて!

尊琉:はいはい。
でも、そんなに汚れてないと思うけど。

継実:だって私、たまに来てたもん。
お兄ちゃんのこと、愚痴るために。

尊琉:は?
俺のことって?

継実:お兄ちゃんが昨日朝帰りしましたーとか?
あと、お兄ちゃんが口きいてくれませんーとか、
色々お世話してるのに、私には何も買ってくれませんーとか。

特にお母さんに。
あなたの息子は女の子を大事にしませんよーって。

尊琉:なんだよ、それ。
別に父さん母さんに報告しなくてもいいんじゃないの?

継実:まあ、文句を言いに来てたっていうのは口実で。

やっぱり会いたくなったらここにくるしかないじゃん。
やっとお父さんとお母さん、二人で仲良く一緒にいるんだから。
その幸せを少し分けてもらいに来てたんだ。

尊琉:そっか。
生きていれば、もっと近くで話聞いたり、幸せ分けてもらえたりしたのにな。

継実:はい、お兄ちゃん。ちゃんと手を合わせて。
お父さんとお母さんに挨拶しよ。

(墓前で手を合わせる)


尊琉:お昼、なんか食べて帰るか?

継実:うん、パスタがいいな〜。

尊琉:お前、ほんとそればっかり。

継実:えー。だって女の子っぽいじゃん。
女子力高いって言って。

尊琉:はいはい、女子力高いな。


【レストランにて】

継実:わあ、美味しそう。
いただきまーす。

尊琉:また、カルボナーラ?
一番好きなのか?

継実:好きだよ。
でも、一番好きなのはお兄ちゃんが作ってくれるナポリタンかな。
お兄ちゃんが私に作ってくれる、唯一の料理だから。

尊琉:あー、あれは母さんがよく作ってくれたのを真似しただけ。
隠し味はあるけどな。

継実:隠し味?

尊琉:まあ、隠し味だから秘密だけど。

継実:えー、なんで教えてくれてもいいじゃん。

尊琉:……考えとく。



継実:お兄ちゃん、何か考えてる?
さっきから黙ってる。

尊琉:あー、ちょっと事故った時のこと、思い出してた。

尊琉ナレーション:「今から5年前、俺はバイクで事故った。」


【5年前 自宅にて(回想)】

尊琉:おかえり。
ってなに。傘さしてこなかったのか?

継実:……お兄ちゃん。
私、告白されちゃった。付き合って欲しいって。

尊琉:…よかったじゃん。
はい、タオル。……ブラウス、透けてる。

お前、前にも告白されてたろ。
なんで、今まで誰とも付き合わないの?

継実:お兄ちゃんは、私が告白されても何にも思わないんだね。

私の…。私のこの姿を見てもドキドキしないの?

…わかってるよ。ダメなことなんだって。

こういうことがあると、私はなんでお兄ちゃんと兄妹(きょうだい)なんだって思うよ。
だって兄妹っていったって義理の兄妹じゃん。
お兄ちゃんのお母さんと私のお父さんが再婚したからじゃん。
その二人ももう事故で亡くなってるのに…。

血が繋がってるわけでもないのになんで?
法律上結婚だってできるんでしょ?
なんで好きになっちゃいけないの?

義理の兄弟だって知らない周りの人におかしいって思われるから?
告白してくれた彼だって、すごく変な顔した…。

…なんで好きって言っちゃダメなの…?

尊琉:…落ち着け。

継実:なんで…。なんでダメなの?

お兄ちゃん、私の気持ちに気付いてるでしょ?
お兄ちゃんだって、本当は私のこと好きでしょ?
彼女さんより私を優先してくれたりするもんね。


尊琉:なんでって…。

俺は……。

継実:……俺は?

尊琉:あー、いや…。

お前は妹で、俺は兄だ。
これはこの先もずっと変わらない。

継実:お兄ちゃん…。

尊琉:俺、これから夜勤だから、もう行く。
…ナポリタン、作っといたから。
あとで食べて。

…行ってくる。

(兄、出かける)

継実:…お兄ちゃんのバカ。

(少しの間をとる)


継実:……え。
今、キーって聞こえた…。

お兄ちゃん…。
バイク……。

やだ、お兄ちゃん!

お兄ちゃん!(叫び気味に)

(妹、家を飛び出して行く)


【再び、現在レストランにて】

継実:お兄ちゃん?お兄ちゃんってば。

どうしたの?
早く食べないと、パスタのびちゃうよ。

尊琉:ああ、うん。

継実:事故のこと思い出してたの?

尊琉:ああ。あの時もたしか、俺ナポリタン作ったってお前言ってたっけ。

継実:…ねえ、お兄ちゃん。
幸い、怪我は軽くてすぐ退院できたけどさ。

事故のせいで少し記憶障害だっけ?新しくて近い記憶が曖昧だって先生に言われたけど。

……本当に。
本当に直前のこと、覚えてないの?

尊琉:……ああ。

雨の日で。

家をバイクで出てすぐ、飛び出して来た“のら猫“避けようとして、横滑りして事故った。

それ以外のことは、なにも。

継実:…そっか。

尊琉:お前がえらく取り乱してたのは覚えてる。
父さんと母さんが亡くなったのも事故だったからな。
その時のこと、思い出したんだろうなって。

継実:ん。すごい怖かった。
お兄ちゃんまでいなくなったらどうしようって。

尊琉:ごめんな、怖い思いさせて。

俺…、あの時、思ったんだ。

お前を一人にすることは絶対にしないって。


継実:まぁ、死んじゃったらそれで終わりだもんね。

尊琉:あぁ。

継実:そっか。
あの時、そんなこと思ってたんだ。

じゃあ、私はずっとそんな優しいお兄様に守られてきたんですね?

尊琉:ふふ。そうだな。優しいお兄様にな。


継実:ふふ。…うん、本当にお兄ちゃんは優しいよ。
優しくてあったかいよ。
20歳の誕生日にパールのピアスくれたし。ね?

だって当時、お兄ちゃんの友達から聞いたもん。
一世一代の買い物してるようだったって。
嬉しかったよ?

尊琉:まあ、たくさん見たし。
お前に似合いそうな色と大きさの真珠を探したからな。

嬉しかったって言う割に、全然あのピアスつけてないような気がするけど?

継実:だってなんかもったいなくて。
落としたらイヤだもん。

尊琉:ふーん、そういうもんなの?


…食べ終わったか?

じゃ、帰るか。

継実:お兄ちゃん。
ちょっと寄り道しながら帰ろ。

通ってた高校とか、あのアイス屋さんとか。
よく迎えにきてくれた駅裏のコンビニとか。

尊琉:あぁ、いいよ。
でも、あんまり遅くまでは無理だぞ。

お前、明日早いんだろ?
あちらの親族も来るんだし。

継実:わかってるって。

…それとさ。

今日の夜、お布団くっつけて寝てもいい?

お父さんたちが亡くなった時、寂しくないように、一時的にリビングにお布団ひいて、
お兄ちゃん隣で寝てくれてたでしょ。
あの時みたいに。

尊琉:…そうだな。
二人で過ごすのも今日が最後だしな。

あっ、でも布団はお前がひけよ。
めんどくさい。

継実:もー、お兄ちゃん、私いなくなっても大丈夫なの?
ほんと、お兄ちゃんのお嫁さんになる人、可哀想…。


【最後の夜】

継実:布団、ひいたよー。
もう、寝る?

尊琉:あぁ、寝る。
お前も早く寝ないとお肌の調子悪くなるぞ。
花嫁は一番綺麗でなくちゃな。

継実:ふふ、ありがと。
でもそういうのってお母さんが言いそう。

尊琉:まぁ俺は母さん代わりでもあるからな。

ほら、寝るぞ。

継実:はーい。

(少し間をとる)


継実:お兄ちゃん?
起きてる?

少し、話してもいい?

尊琉:寝れないのか?

継実:うん。緊張してるみたい。

尊琉:そっか。じゃあ眠くなるまで、少し、話するか。


継実:お父さん達ってすごいよね。
お互い想いあってたのに、色々理由あって結婚できなくて、別の人と結婚して。
それぞれ子供ができて、それが私たちで。
結局、お父さんもお母さんも離婚したけど、偶然再会するまで1度も会ったり連絡とったりしてなかったんでしょ?
偶然っていうのがすごいよね。愛の力だね。
二人が再婚して少ししか一緒にいれなかったけど、お墓の中で今一緒いれて幸せだよね…。

尊琉:幸せだって思ってくれてるといいな。
母さんは前の父さんとは政略結婚みたいなもんだったからな。
じいさんが解放してくれたんだけど。

継実:私もお父さんお母さんみたいに幸せな家庭を築けるかなぁ…?

尊琉:大丈夫だろ。お前なら。


継実:お兄ちゃん…。
今から話すこと、明日には忘れてね。
絶対、絶対、忘れてね。

あのね…。
私、お兄ちゃんが事故にあった直前に、お兄ちゃんに告白したの。
“好き“って。

お兄ちゃんはもちろん、受け入れてくれなくて。
すごくすごく悲しんでたら、事故にあって。
目が覚めたらその時のことはすっかり記憶からなくなってるし。

でも、事故にあってお兄ちゃんがいなくなっちゃうかもってこと考えたら、
ギクシャクして仲良くできなくなるより、兄妹として過ごしていくほうがいいかなって。
気持ち隠して、お兄ちゃんのこと諦めようとしたの。
幸い、お兄ちゃんは記憶ないし。
このまま黙っていたら大丈夫なはずって。

2、3日はめっちゃ泣いたけどね。

尊琉:…知ってる。泣いたんだろうなってことは気づいてた。

継実:もしかして、本当は覚えてるの?

尊琉:……いいか。お前も明日には今から話すこと、忘れろよ。

覚えてる。
っていうか、何日かあとに全部思い出したんだ。

お前、普通に振る舞ってるし、このまま記憶がないふりしたほうが過ごしやすいと思ってさ。

本当は嬉しかった。
だって、俺の方が先に自分の気持ちに気づいてた。

継実:……え?

尊琉:ほんとはあの場で“俺も”って言いたかった。

継実:…どういうこと?
私を好きってこと?

…どうして言ってくれなかったの?

尊琉:家族なら、兄妹なら、縁が切れることはない。
兄という立場なら、ずっとお前を守ってやれる。
だから、ずっとお前の“兄”でいようって。
結婚して、もし上手くいかなくなっても、また戻ってこれる場所を作ってやれる。

そう思って、父さん達が亡くなった時、心に誓ってた。
ずっと見守るって。

気持ちがお前ばっかりに向かないように彼女だって作った。
いつも妹ばっかり優先しすぎるってフラれてたけどな。

継実:お兄ちゃん…。

どうしよう…。 
私、明日、結婚式なのに、どうでも良くなってきてる。

お兄ちゃんの気持ち聞いたら、もう普通の幸せとかいらない。

尊琉:幸せがいらないなんて言うな。

もし俺と上手くいって結婚できたとしても、事情を知らない世間の目は温かいものばかりじゃない。
お前にそんなつらい目にあわせることはしたくない。

結婚して、子供をつくって、ご両親とも仲良くして、旦那のこともよくして、子育ても頑張って、
全部全部終わってやり終えた時。

その時、迎えにいってやる。

だから。…だから幸せに暮らしてくれ。

継実:それじゃあお兄ちゃんはずっと1人なの?

尊琉:さぁ、どうかな…。
それは俺にも分からない。
でもそうであっても構わないよ。

何があっても俺はお前の家族だ。
離れることもない。

父さん母さんみたいな愛の形もあって、これが俺の形。

お前に何があっても、戻ってこれる場所を作っておきたいんだ。


継実:……お兄ちゃんのばか。

そんなの、お兄ちゃんが幸せになれないじゃない。

尊琉:いいんだ。

精一杯生きていくお前の幸せを見守っていくって。
今日だって父さんと母さんに誓ってきた。

継実:…お兄ちゃん。

私ね、お兄ちゃんに好きだって言われたことはなかったけど、
実はなんとなくそうかなって思ってたことあって。
私がそうだといいなって思い込んでた妄想のせいもあると思うんだけど。

でも妄想じゃなかったんだね…。


尊琉:ごめん、ずるいよな。
口に出してしまったら、止められないのは分かっていたから。

行動で愛してるって伝えられたらいいって思ってた。

俺はちゃんと優しく出来ていたか?

継実:うん。

毎朝先に出る私を見送ってくれた寝ぼけた顔も。
迎えに来てくれた時の冷たい白く吐く息も。
連絡してくれた時に返ってくる返信の速さも。

全部全部、お兄ちゃんの優しさ、感じてた。

ありがとう、お兄ちゃん。
ありがとう…。

今日ね、ピアスの話になったから、さっき真珠のこと、調べてたの。
もらった時は誕生石だからだなって思ってたんだけど。

真珠ってね、悪い縁や運を遠ざけるお守りで、記念日に真珠を送るのは
「これからもあなたを守っていきます」っていうメッセージが込められているんだってね。

尊琉:ああ。魔除けみたいなもんかもな。


継実:ね、お兄ちゃん。ひとつだけ確認させて?

私が幸せになったら、お兄ちゃんも幸せなんだよね?

尊琉:ああ。

継実:分かった。
私、幸せになるね。

ずっと見守ってくれてありがとう。
兄妹になってくれてありがとう。

……愛してくれて、ありがとう。


あと、ひとつ、最後にわがまま言っていい?

尊琉:なんだ?

継実:今日、手繋いで寝ていい?
お布団からお互い手を伸ばして。
恋人みたいに、手、繋ぎたい。

だめ?

尊琉:…いいよ。

継実:はい、手、だして。

(手を繋ぐ)

お兄ちゃんの手、大きいね。

私、ずっとこの手に守られてきたんだね。

尊琉:お前の手はちっちゃいな。

守りがいがある。


俺からもひとつ、わがまま言っていいか?

「お兄ちゃん」じゃなくて、下の名前で呼んでみてほしい。

…恋人みたいに。


継実:…「尊琉」。

尊琉…、尊琉、尊琉…。

尊琉:ありがとう。

泣くな。明日、目が腫れるぞ。

継実:幸せな涙だもん。いいの。

尊琉:このまま夢の中でも、手を繋いでる夢、みれるといいな。

継実。
幸せになれよ。


【結婚式当日。チャペルの扉の前にて】

継実:お兄ちゃん、もしかして緊張してる?

もう、バージンロード歩く時、転ばないでよ?
お父さんいないんだから、お兄ちゃんがやるしかないんだからね。


尊琉:お前、そのピアス…。

継実:ふふ、これね。お兄ちゃんから貰ったパールのピアスだよ。

結婚式のドレスに合わせるにはシンプル過ぎるって言われたんだけど、
急遽コレをつけたいんです、これだけは譲れませんってお願いしたの。

尊琉:そっか…。

継実:だってお兄ちゃんの想いが入ってるような気がして…。

だから今日付けたかったし、これからも大事にする。
ありがと。

尊琉:綺麗だよ。
ドレスもピアスも似合ってる。

父さんと母さんにも見せたかったな。

継実:うん。見ててくれてるよ、きっと。

…お兄ちゃん。
幸せ?

尊琉:ああ。幸せだよ。
お前とバージンロード、歩けるんだから。

……バカ、泣くな。
化粧が崩れるぞ。


継実:お兄ちゃんだって、ちょっとウルウルしてるよ?

尊琉:…してない。

継実:ふふ。
そういえば、お兄ちゃん。
ナポリタンの隠し味、教えてくれないの?

尊琉:…あれはまだ秘密。
教えたら自分で作れるようになっちゃうだろ。
お前がどうしても食べたくなって会いにきてくれるように、まだ教えない。

継実:ずるい。
そんなの、すぐ食べたくなるに決まってるじゃん。


尊琉:…そろそろ行こうか。

じゃ、前を向いて。
腕を組んで。

継実:お兄ちゃん。

今までお世話になりました。
どんな出会い方だったとしても、私はお兄ちゃんに出会えて幸せでした。
たくさんの優しさと…、たくさんの愛をありがとう。

尊琉:俺もありがとう。

俺の覚えてないフリに付き合ってくれてありがとう。

……愛してくれて、ありがとう。

継実:うん。

尊琉:さぁ、行こう。
みんな、待ってる。

この扉が開いたら、ただの兄と妹だ。
旦那に、みんなに、幸せにしてもらえ。
俺はいつまでも見守ってるから。

継実:ずっと…見ててね。

尊琉:あぁ。

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